2009年9月10日木曜日

アウトリーチ

9月5日
この日はプロジェクト地のひとつであるキテンゲラでのアウトリーチの日。
キテンゲラはナイロビとカジャドゥの間に位置する街で、渋滞がなければナイロビまで30分もしないぐらいの街。
ナイロビ・カジャドゥ間のマタツに乗っている際に何度か通過している街でもある。
そして、アウトリーチというのは、病院や施設の中で待つのではなく、街に出て行きそこでVCT(Voluntary Counseling and Testing、HIVのカウンセリングとテスト)を行うというもの。


ケンは前日からナイロビにおり、私1人でキテンゲラまで向かうことになっているのだが、前日の診療所見学の遅刻に懲りて、この日は余裕を持ってカジャドゥを出発。
ケンに9時に来るように言われていたのだが、その15分以上前に到着。
さすがにまだ誰も来ておらず、その後しばらくケンや他のスタッフが集まるのを待つ。
が、9時を過ぎても誰も現れず。
ケンに電話すると、まだナイロビ市内におり、渋滞のせいで当分キテンゲラには着かないとのこと。
すぐに到着できない場合でも「すぐに着く」ということの多いケニア人だが、「すぐ着く」とすら言わないということは相当待たされるのだろうと覚悟する。
その代わりにケンは、PEの1人に電話し、すぐに私のところに来るように連絡してくれると言う。
ケンとの連絡の後、さらに待つこと数十分、キテンゲラ内のPEのリーダーをしているというリンダが登場。
見知らぬ街で1人で待たされるという若干不安な状態から開放される。

他のスタッフが集まるまでリンダとおしゃべり。
仲のよい知り合いが日本におり、その友人から日本人は英語の使えない人種だということを聞いているらしく、私の英語に対してそこまで悪くないよと言ってくれる。
また、ケンが電話したときにはまだ寝ており、みんなが集まったら一度家に帰り、シャワーを浴びたいとも言い出す。

しかし一体9時というのはどこから出てきた時間なのだろうか。
よくケンに「明日は何時に起きる?」と聞いたときに返ってくる時間は、大概ケンが実際に起きてくる時間よりも1時間ほど後。
ケンは集合時間などの時間を早めに言うことが多いのだが、さすがに今日は9時集合だろうと思っていたのだが、どうもそうではなかったのかも知れない。

さて、そんなこともありながらだんだんとスタッフは集まり、準備が始まる。
VCT、つまりカウンセリングと血液検査はプライバシー保護のためにテント内で行われるのだが、今回はそのテントを2張り設置する。
また、APHIAⅡのバーナー(垂れ幕)と、もうひとつのステークホルダーのバーナーを設置する。

なお、このようなイベントの後には写真付きでレポートを提出するのが求められており、その際の写真にはさりげなく自分の団体のバーナー(今回はAPHIAⅡのバーナー)が入るようにした方がいいと知っていたので、写真を撮るのにベストな場所にAPHIAⅡのバーナーを張りたかったが、もうひとつのバーナーにその位置を取られてしまう。
(イベント中に撮影した写真にAPHIAⅡ Donated by USAIDのバーナーが写っているのですが、分かりますでしょうか)


本来であればケンの統括のもとで準備が進むべきなのだろうが、渋滞のためにケンはかなり遅刻し、彼が到着したころにはもう準備も終わりかけたころ。
そしてVCTのアウトリーチは始まる。

ちなみに遅刻してきたケンだが、今日中に送らなければならないメールがあるが、キテンゲラの街は停電でネットカフェが使えず、隣町まで行かなければいけないと言い出し、始まってすぐにいなくなってしまう。
ケンが帰ってきたのはそれから何時間も経ってから。
以前、ケンはキテンゲラのPEたちは全然活動的でないと文句を言っていたが、彼が不在な中でもしっかりと働くPEたちの姿を見ていると、以前にケンの言葉に疑問がわいてくる。

カジャドゥ県内の他の3つのプロジェクト地のPEはほとんどが女性なのだが、キテンゲラは男性のPEも多く、活動的な気がする。
そして、女性にしても、中年層がメインのカジャドゥ市内のPEとは異なり、キテンゲラでは全体的に若い印象を受ける。
他のプロジェクト地と異なりここのPEたちが若く活動的なのは、APHIAⅡでの活動を通して就職口が見つからないかと考えているからのよう。
今年・来年で大学を卒業する予定というPEも何人かいるが、就職事情の厳しいケニアのため、まだ就職が決まっていないという。
そのような中、APHIAⅡの他の団体で働いているあるスタッフはこうやったボランティア活動を通して就職したらしく、彼女のようにUSAIDの関係で就職できたらと何人かが口にしていた。
ケニアで働くことの難しさを知らされるとともに、改めてUSAIDがドナーとなっている比較的安定した団体は恵まれた職場なのだと知らされる。


さて、VCTに話を戻すと、マタツ乗り場の一角を陣取ってのアウトリーチのため人通りも多く、自然とマタツの客引きや暇そうなお兄ちゃん、マタツの乗客などが集まる。
そして、PEが無料の靴磨きサービスをし、それ目当ての人も集まる。
さらに手の空いたスタッフが道行く人に声をかけたりするので、VCTのテントには順番待ちの行列ができるほど。

VCTを受ける人を見ていると、多くの人が自分はHIVに感染していないとは言い切れないとの認識のようで、だからこそHIVのステータスを知るために検査を望んでいるよう。
ケニアはアフリカの中ではHIVの感染率は決して高くはなく、カジャドゥの感染率は5%以下だが、それでも多くの人がHIVを自分に関係しうる問題だと考えているのが分かる。
日本でHIVを自分に関係しうる問題だと考えている人などほとんどいないであろうし、クラミジアなどのSTI・性感染症についてもまた然りなのではないだろうか。
そう考えると、ケニアの問題意識の高さには、私たち日本人も学ぶところがあるのではないかと感じる。
ちなみに、VCTテントの横でやっている無料の靴磨きのサービスだが、検査を受けずに靴磨きだけしていなくなる人もいる。
彼らはHIVに関心がないのからVCTを受けないのかとスタッフに聞いてみたところ、関心がないわけではなく、自分のステータスを知るのが怖いからVCTを受けないのだという回答。
HIVに感染している可能性がある人ほど、早期診療のためも検査を受ける必要があるのだが、自分は感染している可能性があると思っている人が逆に検査から遠ざかってしまっているのは残念なこと。
社会にスティグマがいまだに根強く残っているのは確かだし、政府からの補助により無料ではあものの、しかしHIV治療は十分に整備されていないのがケニアの現状だが、それでもVCTがより身近なものにならないものかと考えさせられる。
また、少なからぬ人が検査は有料だと思っているようで(実際有料で検査を行っている病院もあるのだが)、そのような認識が広がっているのも、これから改善していかなければならない点であろう。


ケニアの強い日差しの下、会場周辺は検査待ちの人や冷やかしの人が集まり、とても盛況。
ただ、テスト自体に時間がかかるわけではないのだが、テストの前にカウンセリングがあるので一人当たりそれなりの時間がかかり、VCTが2つのテントででしかできず、あまり多くの人数をさばけないのが残念なところ(ちなみにテント内でカウンセリングとテストを担当しているのはPEではなく、カウンセラーの資格も持った看護師のおばちゃん)。
実際にVCTを必要としているキテンゲラの人口に対し、今回VCTを受けた数十人という人数はあまりにも少ないようにも感じるが、それでも人目につく場所でこうやったイベントができたことで、街の人にはある程度の影響を与えられたのであろうか。