2012年2月13日月曜日

高知大生、卒業を前に

去年の2月の、ちょうどこの時期だったのではないかと思う。
今の1年生が大学に入学する際の歓迎の言葉として、学内のとある冊子向けにちょっとした駄文を書かせてもらったのだ。
卒業がだんだんと近づいてきた今、その文章を読み返してみる。
それは、新入生に送るメッセージであるとともに、誰よりも、自分自身に対してのエールだったのではと思う。

以下転載

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 新入生の皆さん、高知大学へようこそ。
皆さんの中には、入学の喜びと大学生活への期待に胸をふくらませている人も、あるいは終わったばかりの入学試験に心残りを感じている人もいるかと思います。気安く「入学おめでとう」などと言うのは失礼かもしれません。しかし、皆さんが高知大学に来てくれたことを歓迎したいと思います。

 さて今回は、私が一昨年度大学を休学し、アフリカにあるNGOにインターン(研修生)として滞在してきたときのことを書かないかと筆を預かっています。
 そもそも私が休学をしてまで海外に行く原動力になったのは、医者という特殊な職業に就こうとしている自分のあるべき姿と、実際の自分の姿との大きな乖離に何とも言えぬ焦りを感じたからでした。それまでの大学4年間、テストに落ちない程度に勉強し、部活をし、バイトをする、それなりに充実した日々ではありました。しかし、かつて高校生だったころの自分が見たら、少しがっかりするような日々であったようにも思います。もともと保健医療分野での国際協力に興味を持ち、意識するようになったのが医学部という進路と医者という職業でした。大学に入学したときに抱いていた気持ちを、大学生活の中でぽろりぽろりと落としていっているのではないかと感じました。また、海外にこだわらないにしても、人さまの健康と生き方に大きな影響を与え、「先生」などと呼ばれるには、自分があまりにも薄っぺたな人間に感じられました。
 そんな焦燥感に駆られ向かった先が、アフリカでHIV/AIDS(エイズ)の予防啓発活動を展開しているNGOでした。必ずしも大学を休学する必要があったわけでもなかったのかものかも知れませんし、アフリカまで行く必要もなかったのかも知れません。ただ、HIV/AIDSという、本来であれば予防可能な病気、単に健康を害するということ以上の影響を個人や社会に与える病気に興味がありましたし、病院や診療所に来る前の段階というものを自らの目で見、関わりたいという思いもありました。もちろん純粋に好奇心や怖いもの見たさが手伝った部分もあります。アフリカ・ケニアのナイロビに本部を置く、アフリカ人が代表を務め、スタッフも皆アフリカ人、そしてアフリカ人のために活動するNGOに、インターンという身分で置かせてもらえることになりました。

 それまでの大学生活への焦りが向かわせたアフリカ・ケニアでしたが、正直なことを言うと、そこでもいつも何かに焦っている自分がいました。
 ケニアの人たちの性格を表す現地の言葉スワヒリ語に、「ポレポレ」というものがあります。「ゆっくり」という意味なのですが、彼らはまさに「ポレポレ」でした。何とも大らかな価値観を持ち、時間に縛られず、明日の心配などせず今日を楽しむような姿勢。もちろん同じ人間ですから、もっといい仕事に就きたいであるとか、もっといい暮らしをしたいであるとか、、ケニアの人たちも思うのですが、しかし日本に暮らす我々のように脅迫的な観念に縛られて生活しているようには見えませんでした。何時間も(いや、何日もということもありましたが)待ち合わせの時間をすっぽかしも、何食わぬ顔で現れるなどというのは日常茶飯事。明日の食事もままならないのに、何とものんびりと構える彼ら。
 観光でケニアを訪れていたのなら彼らの「ポレポレ」な姿勢を心地よく感じたのかも知れません。しかし休学までした手前、「何かしなければ」という思いに駆られ、彼らのペースに合わせることにいらだちを感じずにはいられないこともありました。
 私のいたNGOの活動のいくつかは欧米の政府がドナーとなっているものがあったのですが、ちょうどその頃世界的な不況になっており、欧米政府からの送金が滞り、さらにケニアでのお役所仕事のために慢性的な送金停滞が起こるなどしていました。活動資金がないためにNGOの活動もお休みとなり、何週間という単位で仕事がないようなこともありました。仕事がなくても皆オフィスにはちゃんと来るのですが、おしゃべりだけして1日を過ごすような日が何日も続くことがありました。私は仕事がないのであればないなりに仕事を見つけるなり作るなりしなければと思うのですが、彼らは仕事がないのであればお茶でも飲みながらゆっくりしようという姿勢でした。そんな時間を過ごしていると、日本の同級生たちはどうしているのだろうかなどと考え、焦らずにはいられなくなってしまいました。
 結局、食事や生活習慣などケニアでの生活でどっぷりと馴染んだことも多かったのですが、どうしても「ポレポレ」な姿勢だけは身に付けられないまま、ケニアでのインターンとしての日々も終わりを迎えることになりました。日本に向けケニアを発つときになって、休学したときにケニアで達成したいと考えていたことや期待していたことと、実際にケニアに言ってみてとを比べてみると、そこに大きな開きがあるように思われてなりませんでした。私をケニアに駆り立てた焦りは、そのまま持ち越しになったようにも思われました。

 休学から復帰し、新しい同級生と合流し、早1年が経とうとしています。いまだに将来の進路についてはっきりと決められずにいる自分がここにいます。あるいは、勉強などやりたいことも思うように進められず、もどかしさを感じることもしばしばあります。休学前の自分と今の自分を比べ、何か変わったことがあるかどうかは分かりません。
 しかし、アフリカで過ごした時間の中で得たものも少なからずあるのではないかと、今はそう考えられるようになってきています。焦りすぎずゆっくりでも確実に、残り1年となった学生生活を充実したものにできるように過ごそうとする姿勢。それが一番の収穫なのではないかと思います。最後になりましたが、新入生の皆さんのこれからの大学生活も充実したものになるよう祈っています。

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以上転載

卒業を前にした今、大学に入ってからの時間を振り返ってみると、まさに空回りと逆走の7年間だったように思う。
しかし、そんなところを含め自分らしい7年間だったのかも知れない。
今まで、こんな私に付き合ってくださった皆さんには心からお礼を申し上げたいと思う。
ありがとうございました。


前を向いて進もう


2012年2月13日
国家試験を終えた高松にて